概要
『日本書紀』は、養老4年(720年)に完成した日本最古の正史であり、六国史の第一にあたります。本文化財は、平安時代に書写された『日本書紀』の写本のうち、巻第十一(仁徳天皇紀)、第十四(雄略天皇紀)、第十七(継体天皇紀)、第二十(敏達天皇紀)の4巻からなる極めて貴重な古写本です。加賀藩主前田家に伝来し、現在は公益財団法人前田育徳会(尊経閣文庫)が所有しています。現存する平安写本の中でも最古の部類に属し、日本の国家形成を知る上で不可欠な典籍です。
歴史的背景
『日本書紀』は神代から持統天皇までを記した全30巻からなり、朝廷の正史として重んじられてきました。平安時代に入ると、貴族の間でその講読や研究を目的とした「日本紀講筵(にほんぎこうえん)」が開催され、それに伴い多くの写本が作られました。 本写本は、巻第十一・十四が11世紀後半(平安時代中期)、巻第十七・二十が12世紀初頭(平安時代後期)に書写されたものと推定されています。加賀藩3代藩主・前田利常らによって収集・保存されてきた「尊経閣文庫」の蔵書であり、当時の知識層がどのように国家の成り立ちを学び、保存・伝承してきたかを示す重要な歴史的資料となっています。
特徴と魅力
本文化財は、平安時代の書道史および国文学・国史学において極めて重要な価値を有しています。
- 書風の美しさと変遷: 平安時代の端正で気品ある楷書体で記されています。巻によって筆致に差異が見られることから、複数の能書家によって書写された当時の写本制作の実態を伝えています。
- 最古級の訓点資料: 本文の傍らには朱や墨による詳細な訓点(読み方を示す符号)や注記が施されています。これらは平安時代初期の講筵で用いられた古い読み方を留めており、日本語の歴史や万葉仮名の研究において極めて高い学術的価値を持っています。
- 稀少な平安時代の写本: 『日本書紀』全30巻のうち、特定の巻がまとまって平安時代まで遡って現存している例は極めて稀です。文字の正確性、紙質、装丁のすべてにおいて最高水準の品質を保っています。
- 国宝としての価値: 日本の国家形成の記録である『日本書紀』の最古級の写本として、また加賀百万石の前田家が守り抜いた文化遺産として、日本の歴史記述の原点を伝える至宝として高く評価されています。
出典: 国指定文化財等データベースより一部抜粋