書跡・典籍

土佐日記

鎌倉時代
作者 藤原定家
東京都
公益財団法人前田育徳会 / 東京都

概要

『土佐日記』は、平安時代の歌人・紀貫之(きのつらゆき)によって記された日本最古の日記文学の一つです。本作は、鎌倉時代の高名な歌人であり学者でもある藤原定家(ふじわらのていか)が、当時まだ現存していた紀貫之の自筆原本を直接参照し、その形態を極めて忠実に再現して書写したものです。定家の筆致により、平安時代の至宝が後世に継承された、書跡・文学の両面で極めて重要な文化財です。

歴史的背景

『土佐日記』の原本は、承平5年(935年)に紀貫之が土佐国(現在の高知県)での任期を終え、京へ帰るまでの旅程を綴ったものです。当時、日記は男性が漢字で公的な記録を記す「官庁日記」が主流でしたが、貫之は敢えて女性の語り口を借り「かな文字」で記すという画期的な手法を用いました。それから約300年後の嘉定元年(1235年)、藤原定家は蓮華王院に伝わっていた貫之の自筆原本を借覧し、古典の保存と継承のために書写を行いました。定家は晩年、古典の校訂と保存に心血を注いでおり、本作はその学問的執念の結晶といえます。

特徴と魅力

本作は、文学的価値と美術的・歴史的価値を兼ね備えており、以下の点が大きな魅力となっています。

  • 定家様(ていかよう)の書風: 藤原定家独特の、強弱の変化が激しく、個性的で格式高い筆致(定家様)で記されており、鎌倉時代の美意識を今に伝えています。
  • 二人の巨星の交錯: 紀貫之という「かな文学の祖」の作品を、藤原定家という「中世歌壇の覇者」が書き写したという、時空を超えた日本文学史上もっとも贅沢な交わりを体現しています。
  • 原本の姿を伝える「転写」の精度: 定家は原本の文字数や行割りを忠実に守って写しており、現在は失われた紀貫之自筆本の姿(文字の配置や筆致の雰囲気)を現代に伝える唯一無二の資料となっています。
  • 国文学研究の礎: 本写本(定家本)は、現存する『土佐日記』の諸本の中で最も信頼性が高いとされ、現代の校注や研究において底本として欠かせない最重要資料です。
  • 歴史的価値: 日本文学史上、かな文字による散文文学の先駆けとなった作品が、後世の文化を支えた定家の手によって大切に保存されたという歴史の重みが、前田育徳会に伝わるこの一帖に凝縮されています。

出典: 国指定文化財等データベースより一部抜粋

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土佐日記

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